ベルリン・フィルの有料映像配信サイトで、カヴァコスのヴァイオリン・ソロとドゥダメル指揮によるコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲が配信されており、カヴァコスはともかくとしても、ドゥダメルが振っているとなると、興味を抑えきれず、聴いてみた。
ドゥダメルのオケに関しては、やはりドゥダメルの才能は半端ではなく、ベルリン・フィルの完璧なパフォーマンスと共に凄いと思ったが、カヴァコスのソロに関しては、技術的にはともかく、正直言って失望した。
カヴァコスのソロは、コルンゴルトとハイフェッツの共同作業により完成された、技術的にも音楽的にも完璧な音楽創造を思うと、ボウイングもフィンガリングもアーティキュレーションも滅茶苦茶。それとも、もうハイフェッツは過去の人になってしまったのだろうか。ハイフェッツの師匠であるレオポルド・アウアー以来、弟子から弟子に100年以上伝えられてきた秘伝は、もはや誰も受け継がないのか。そう考えると悲しい。
終楽章の猛スピードには驚いたが、楽譜を隅々まで知っている僕からすると、かなりはしょっている箇所が多く、速ければいいというものではない。ハイフェッツがクルツとニューヨークで演奏したライヴは、やはり猛スピードで、ボウイングもフィンガリングもアーティキュレーションも完璧で一部の隙も無く、本当に凄いが、カヴァコスのような安易なボウイングとフィンガリングやアーティキュレーションであれば、僕でも弾ける。単に速いだけの無味乾燥な演奏である。外面的なだけのソロであり、全く評価できない。
僕が江藤先生(江藤先生はジンバリストの弟子であり、ジンバリストの師匠はレオポルド・アウアーで、やはり江藤先生も秘伝の伝承者であった)と、ハイフェッツの弟子二人に教わった秘技は特別であり、僕の技術的限界は別として、こんなに安易で外面的な演奏が絶賛されるとは、コルンゴルトの神髄など、まだまだ理解されるまでには時間がかかるのだろう。コルンゴルトの権威と自負する僕からすれば、オケはともかく、あんなお粗末なソロは、世に出して欲しくない。
コルンゴルトの作風は、本当に奥深く、いくら研究しても、限界というものが無い。こんな有様では、僕が生きている間に、最高傑作であるヴァイオリン協奏曲の、まともな演奏は、多分、誰にも出来ないだろう。