それは、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番と、ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番をカップリングしたCDの事である。誰にでも分かりやすい名曲の組み合わせだが、この選択が、なかなか難しい。
まず、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番だが、これは、ホロヴィッツがトスカニーニと共演した1943年ライヴ、或いは、ホロヴィッツがワルターと共演した1948年ライヴ録音の海賊盤がダントツなのだが、録音が古く、ホロヴィッツはラフマニノフのピアノ協奏曲第二番をレコーディングしていない(第三番は1978年のオーマンディと共演した決定的ライヴが有るのだが)。
ラフマニノフのピアノ協奏曲第二番に関しては、ラフマニノフが自身で最高と絶賛したストコフスキー指揮での自作自演が有り、これは別格だが、いかんせん録音が古い。それで、ステレオ録音で探すと、リヒテル(ヴィスロツキ指揮)がダントツで、作曲者のラフマニノフ自作自演をも超えているのではないかと思える程の名演なのだが、残念ながら、カップリングされているカラヤンと共演したチャイコフスキーの出来が悪い。
結局、この組み合わせのベストCDは無いのかと思っていたのだが、ここに盲点が有った。ルービンシュタインである。ルービンシュタインは昔、フリッツ・ライナーの指揮でラフマニノフの協奏曲第二番を録音しているのだが、どこかかみ合わないギクシャクした演奏。その後、RCAはライナーの指揮でチャイコフスキーの録音を企画するのだが、ルービンシュタインが「ライナーは絶対に嫌だ」と拒否し、結局ラインスドルフ指揮になったという経緯が有る。
ラインスドルフといえば、ダメ指揮者の代表のような存在、こんな演奏に期待できるかと、今まで買わなかったのだが、ルービンシュタインが、後に伴奏名人のオーマンディと共演した定評のあるラフマニノフの協奏曲第二番とカップリングしたCDが有ったので、試しに買ってみた。
そしたら、「感動!」。ラインスドルフが意外な力演。ひょっとすると、ボストン交響楽団に、ミュンシュ時代の精神が残っていたのかもしれない。ルービンシュタインのソロも、ホロヴィッツに次ぐ出来で、素晴らしい。ラフマニノフに関しては、もう定番の名演なので、今さらとやかく言うまでもないだろう。ルービンシュタイン84歳の録音だが、衰えは全く感じられない。
結局、この二曲を一枚のCDで聴きたい人は、ルービンシュタインの名演盤を買われる事をおすすめしたい。