カネミ油症事件を引き起こした猛毒物質、PCB(ポリ塩化ビフェニール)だが、あまりの猛毒や化学的構造の問題で、捨てる事も、化学的に処理する事も出来ず、本当に困った物質である。これは電気、特にオーディオやエレキギターの世界に生きる者としては、現在でも大問題なのである。
というのも、このPCB、電気絶縁物質として、極めて優れた性能を持っており、昔は当たり前のように、トランスやコンデンサに使われていた。今でも日本各所に、寿命を終えたPCBを使った大型トランスが、捨てる事も出来ずに保管されている。また、PCBが使われている事を知らずに捨てられてしまった物や、行方不明になったものも有り、PCBは土に帰る事は無く、地球上に蓄積されるため、これは大問題である。
僕にとっての問題は、コンデンサである。昔、オイルコンデンサの絶縁オイルとしてPCBが使われており、コンデンサとしての性能が良いため、盛んに使われていた。今はオイルコンデンサは製造されておらず、フィルムコンデンサなどにとって代わっているが、ディープなオーディオマニア、エレキギターのプレーヤーの間では、オイルコンデンサの音を好む人も多く、全てのオイルコンデンサがPCBを使っているわけではないが、昔のオイルコンデンサは、ヴィンテージ・コンデンサとして、デッドストック品が今でも高値で取引されている。
これを使って音楽を楽しむ分には良いが、処分する時が問題である。昔、オーディオ雑誌に政府通達として、オイルコンデンサを捨てないようにと警告が掲載された事が有ったが、僕が使っているマランツ#7に使われているカップリング・コンデンサ、バンブルビーは大丈夫なのだろうか。心配である。
「毒薬変じて薬となる」ということわざが有るが、これはシャレにならない。PCB以外にも、昔の乾電池には、当たり前のように水銀が使われていたし、そのものズバリ、水銀電池という電池も有った。水銀を使った電池は性能が良く、特に水銀電池は、電圧が極めて正確で安定しているという独自の特色が有り、この特性を利用したカメラが昔は有ったが、現在は水銀電池は入手不可能で、このようなカメラは使えなくなってしまった。
自作半導体アンプのカリスマで、金田明彦さんという人がいるが、金田アンプでは、昔は電源として乾電池を使っていた。しかし、水銀を使った音の良い乾電池が入手不可能になり、遂に大型Rコアトランスを使った電源装置を発表するに至った。
PCBも水銀も猛毒である。これらを使った電気製品は、現在は無いが、猛毒と知りながら、こだわりで使っている人がいる。使うのは自由だが、後始末にだけは注意する必要が有る。