チェリビダッケは、間違いなく20世紀最高の指揮者の一人である。変人指揮者としても有名で、まず、録音を完全否定、オーケストラに常識はずれのリハーサル時間を要求し、さらに毒舌。とにかく「奇人」として知られる指揮者だった。とにかく録音が無いので、その芸術に触れるには、コンサートに行くしかない。それで、コンサートで、空前絶後の体験をし、チェリビダッケが録音を否定する理由もよくわかった。
チェリビダッケのコンサートには何度も通ったが、舞台上では「奇人」という印象は全く無く、超一流のエンターテイナーであり、聴衆を大切にする素晴らしい指揮者であった。それらのコンサートの中でも忘れ難いのが、R・シュトラウスの「死と変容」、ブラームスの交響曲第4番などを取り上げたコンサートであった。どちらも超絶的な名演奏。特に、ブラ4は、ミュンヘン・フィルが、自らの最高の演奏として、チェリビダッケの死後に録音を探していたという伝説の名演で、客席にいた僕は、最初から最後まで固まってしまい、気が付いたら拍手していたという、あっという間の出来事であった。このコンサートが1986年。当時僕は24歳。あれから既に26年。まるで昨日の出来事のようである。そういえば、カルロス・クライバーの歴史的公演もこの年だった。懐かしいというか何というか、時が経つのは速い。
幸い、録音が発見され、CD化されたのだが、さすがにブラ4は公開できない。著作権ギリギリで、「死と変容」と、アンコール2曲を、モノラルのMP3で公開するので、どうかお聴きください。コンサートの全貌や、ステレオで聴きたい方、リハーサルも聴きたい方は、CDを購入してください。モノラルでは差信号が消えてしまいますので、モノとステレオでは、音の次元が違います。是非ステレオのCDをお買い求めの上、演奏の真価を味あわれる事を、お勧めします。それではどうぞ。
ブラ4は公開不可能だと思っていたが、やはりこの「世紀の名演」の片鱗でも聴いて欲しい、というわけで、4楽章をモノラルで公開する事にした。ステレオで聴けば、更にチェリビダッケの神髄に接する事が出来るであろう。もうギリギリスレスレである。
当時、チェリビダッケやクライバーのチケット争奪行列で友達になった、森嶋雅隆君は、白血病で、既に世を去った。あの頃は、音楽を通じて、色々な出会いが有ったな。ホロヴィッツの二度目の来日でも、僕は銀座の梶本音楽事務所に徹夜で行列に並んだが、その時にも、忘れ難い出会いが有った。あの頃は、本当に音楽に燃えていたな。今となっては、全てが懐かしい。
セルジウ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィル
1986年10月15日 東京文化会館ライヴ