友達が、「名演だからとにかく聴いてくれ」というので、CD店サイトを各社見たが、既に廃盤で、どこも扱っていない。こうなると、アマゾンのマーケット・プレイスしか無い。中古は嫌なので、6000円も出して、新品を買った。
夭折した名指揮者としては、先日カンテルリを取り上げたばかりだが、フリッチャイは48歳で白血病で亡くなっており、自分よりも若くして亡くなっており、これも夭折の部類に入るだろう。
フリッチャイのレコードとしては、今まで知っているのはベートーヴェンの「第九」のみ。これは名演で、バリトンをフィッシャー=ディースカウが歌っており、滅茶苦茶うまい。これしか無かったのだが、この「新世界」と「ハーリ・ヤーノシュ」には本当に驚いた。
フリッチャイも、若くして亡くなる事が無ければ、20世紀最高の指揮者の一人として名声を欲しいままにしていた事は間違いない。まず「新世界」だが、とにかく、こんなスケール極大で、ディテールの仕上げが入念で、オーケストラ(ベルリン・フィル)の各パートのバランスへの配慮が完璧で、曲のツボを全て押さえ、しかも自然体で感動的な「新世界」は、かつて聴いた事が無い。この曲には色々なアプローチの可能性が有るが、この演奏は、一つのアプローチとして極まった演奏であろう。こんなありふれた曲で、こんなに感動するとは正直言って思っていなかった。録音は1959年だが、当時のベルリン・フィルは、フルトヴェングラー時代の味わいが十分残っており、後のカラヤン全盛期とは響きが根本的に違う。録音場所は不明だが、イエス・キリスト教会だろうか。当時としては出色の録音である。
「ハーリ・ヤーノシュ」は、手兵ベルリン放送交響楽団(西)との共演だが、これも、セルと並んで、同曲異盤中ベストを争う名演である。ハンガリー人であるフリッチャイのタクトが、「お国物」で冴えわたっている。これも、細かい配慮が完璧で、一部の隙もない名演である。
今まで「第九」しか知らなかったフリッチャイだが、これからは、20世紀を代表する指揮者の一人として、僕の記憶に永遠に刻まれるであろう。