「愛しの」と言っても恋愛沙汰ではない。彼女は既に結婚している。ここで言いたいのはピアニスト藤原由紀乃さんのピアニズムの素晴らしさである。2006年のリサイタルで、僕は大枚はたいて彼女に頼んだ。これは大成功であった。ただ、予期せぬアクシデントが起きて、彼女には迷惑をかけてしまった。藤原さんのお母様にも大変なお世話になった。彼女は僕との共演は、もう懲り懲りと思っているかもしれない。しかし、もう一度彼女と弾きたい。リサイタル当時は、最強の薬を含む薬漬けで、副作用により手が痙攣してしまった。現在、ようやくメジャー・トランキライザーの呪縛から解け、軽い薬だけで生活できるようになった。もう手が痙攣する事は無い。彼女は、日本人離れの音楽性の持ち主で、「そこルバートして」と頼むと、和声に従った絶妙なルバートをしてくれる。例えば、ドヴォルザークのソナチネ4楽章の再現部への経過を聴いてみてほしい。こんな日本人ピアニストは他にいない。再び藤原由紀乃さんと共演するのは、僕の夢である。
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